暑い。
今年も夏が来た。
蒸し暑い、と言うよりは太陽が近くなったような、カラカラに乾いた暑さだった。
戦人は久しぶりに祖母の家に来ていた。
金髪の魔女を連れて。
「和だな。」
「まぁな。」
なぜ連れてきたかというとこいつが何処かへ連れていけ、夏休みだろ、と魔女には関係ないくせに夏休みとか言う単語を引っ張り出してきたからだ。
実際特にすることもなく、久しぶりに祖母の顔も見たくなったため、口うるさい彼女も連れて行くことにしたのだ。
電話で友達も連れて行くと伝えたら、とても嬉しそうに歓迎してくれた。
着くなり、ベアトリーチェは古い木造の家を見上げて瞳を輝かせていた。
普段洋館暮らしのためだろうか。
インターホンがないため、勝手に家の戸を開けるが誰もいないようだった。
一応連絡は入れてあるわけだし、上がっていてもいいだろう。
「邪魔するぞ」
「ベアト、靴は此処で脱いでいけよ。」
「そうなのか?」
スリッパを並べてやり、それに履き替えるように促した。
ぺたんこで布製のでこぼこした馴れない履き物に、少し痛がっているのが滑稽に見えて可笑しかった。
少し笑うと軽く睨まれた。
***
居間へ行くと、丸い卓袱台の上にメモが一枚置かれていた。
《戦人君
いらっしゃい、良く来てくれたね。
お友達さんもいらっしゃい。
おばあちゃんは夕飯のお買い物に行ってきます。
今日は暑かったでしょう?
冷蔵庫に町内のお祭りで貰ったラムネがあります。よかったら二人で飲んでね。
夕方には帰ります。》
かさりと紙を拾い上げるとそんな事が書かれていた。
「ラムネか、懐かしいな。」
「ラムネ?あの小さくて甘い駄菓子のか?」
「いや、あれもラムネなんだけどな………夏には定番の飲み物があるんだ。」
「飲み物なのか?」
にっと笑って戦人はベアトリーチェの手を掴み、台所へと連れて行った。
冷房の無いこの家はかなり暑かったが、冷蔵庫から取り出したラムネはとても冷えていてベアトリーチェの額に瓶を当ててやると、ひゃっと小さく声を上げた。
ラムネ瓶を二本持ち、縁側へと出た。
庭に足を投げ出し腰掛ける。
持っていたラムネの片方をベアトリーチェに手渡した。
「どうやって開けるのか分からぬぞ。」
ベアトリーチェは瓶を回したり逆さにしながら、いろんな角度から見た。
「ちょ、や、やめろッ!振るなッッ!!」
「む?」
戦人が慌ててベアトリーチェの手からラムネを取り上げた。
一方ベアトリーチェはきょとんとした顔で慌てる戦人を見ていた。
戦人はふぅ、と息を付くと、ラベルを剥がし栓を瓶の口に当て、グッと手で押してやった。
ぽんっとビー玉の抜ける音がする。
(しゅわぁああ)
「わっ!な、なんなのだこれはっ!?」
「お前が振るからだろ!」
瓶からは中身が泡となり盛大に溢れ出した。
ラムネはかなり減ってしまっていた。
「ったく、しょうがねぇなぁ………」
戦人は手際よくもう一本を開けると、そちらをベアトリーチェに渡してやった。
溢れて減ってしまった方のラムネをグイッと一口飲む。
「よいのか?」
「ああ。ほら、飲めよ。」
ベアトリーチェはラムネを受け取るとじっと瓶を見つめた。
瓶の中ではふつふつと小さな気泡がのぼっていて、透明なビー玉が歪んで見えた。
「戦人戦人、なんでガラス玉が入っておるのだ?」
「ん?ああ、ビー玉か。なんでだっけなぁ」
半分以上飲んだラムネを改めて眺めた。
キラキラと太陽の光を受けて、ラムネの中を輝きながら揺らめいていた。
ベアトリーチェの方に視線を移すとまだ眺めているようだった。
「飲まないのか?」
「飲むぞ!そなたにはやらんぞッ!」
「分かってるって」
ベアトリーチェはむっとしながらラムネを一口、口に含んだ。
「わぷッッ!?―――な、なんだっ!?」
初めての炭酸に驚いたようで、噴き出しそうになりながらも何とか飲み込んだ。
しかし味はおいしかったようで、ちびちびと少しずつ飲みだした。
「うまいだろ?」
「初めはなにかと思ったがな。嫌いではないぞ」
嬉しそうにラムネを飲むベアトリーチェを見て、それだけでお腹いっぱいになりそうだった。
ベアトリーチェはしばらく飲むと、ふいにこちらを見て言った。
「なぁ戦人、このガラス玉どうしても取り出せぬのか?」
カラカラとラムネの瓶を振りながら困った顔をするベアトリーチェ。
「出してどうすんだよ?」
「どうするって………綺麗であろう?これが欲しいのだ!」
ぱっと期待に満ちたようなきらきらとした顔になり、戦人にせがむように言った。
対する戦人はくすりと苦笑いを浮かべた。
「瓶から出したってただのビー玉だぜ?」
「むぅ、でも………」
「きっとさ、こん中にあるから綺麗なんだよ。」
戦人は手に持った空の瓶を太陽に翳した。
相変わらず眩しい光を反射させるそれは、きらきらと光っていた。
「取り出せないから、余計に欲しいと思うんだよ。」
「そんなものか?」
「ああ、そんなもんだ。」
ベアトリーチェもようやくラムネを飲み干すと、また戦人と同じように空に掲げた。
瓶の中のビー玉は取り出せないことを笑うように無邪気に輝いていた。
―――――囚われているのは自分なのに
ラムネ日和(そこに居るのに届かない、だから余計に欲しくなる。)end
*あとがき
はい、夏がきます。
ラムネは誰もが一度は飲んだこと在るはず。
さらに誰もが一度はラムネの瓶を割ろうとしたはず…ッ!
瓶捨てるときもったいなかったなぁ…
ね(´・ω・`)←
なんも模様もないただの透明のビー玉なのに欲しかった
そんな幼い夏の日
とかは置いといてwww
ベアトは欲しがるだろうなって、戦人はベアトをビー玉に例えて気づいて欲しいだろうなって
ほのぼののつもりで書き始めたけど最後にシリアス風味がw
ほのアスみたいなwww
いつもどうりのgrks妄想でございまふw
サーセンorz
なんか他の文士様方に混じるの恥ずかしくなってきたwww
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