忍者ブログ
ベアト総受け小説企画ブログです
| Admin | Write | Comment |
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

金蔵×ベアトリーチェ














薄暗い黄昏時。
それでも裸足で歩くには熱を帯びすぎた砂粒。
世界は夏の始まりを告げた。
奈落へと引きずり込む波と心の冷たさだけが、夏の終わりを許してくれた。

置いてけぼりのかたっぽだけのビーチサンダル。
その主は疎ましむはずの両親の腕の中に帰った。
造りかけの砂の城。
爪先で蹴り崩す。一思いに。左半分だけ剥がれる。





聞けない、自分を引き留めた声。
絡まない、夕焼けに馴染んだあの髪一筋さえ。
触れられない、幼さを伴う頬の赤らみ。

ずっと、ずっとあの日々に浮かされたまま。
数え切れない時を刻んだ。
指折り数えた毎日。今は遠く紛れていく。

たった一人の掌を求めて。



「誰の事を考えている?」

鷹か、―――或いは鷲のようだ、と思った。
狙い澄ましたように聞いてくる。

「別に。何と言ってもどうせ信じぬのであろう。そなたの自由に妄想するが良いわ」
「随分きっぱりと言うな」
「ボケたか金蔵。半世紀分の自分の行いを思い返してみることをオススメするぞ」

さらさらと砂石を擽る漣が鴇鼠色の貝殻を打ち上げ、殻の破片がベアトの踵を弄ぶ。
踏み付けて進む。深淵が支配する水平線へ。

金蔵の靴底が擦れる音が聞こえる。
どうやら追い掛けてくるつもりらしい。今宵は自由にさせてくれるのではなかったのか。

――――心配性だな。
そう笑える自分に驚く。

「答えろ。誰の事を考えた?」
「今はそなたのことを考えておるぞ」

ドレスが水分を吸って余計に重い。気付けば水位は膝を越している。
どうりで身動きが取れないわけだ。

「………ッ………ぁ」

それでも尚、歩く。無様に、滑稽に。
その姿には魔女の婉然とした威厳などなく、女神のような神々しさもない。

――――ただ、『愛』を知った一人の女の、いじらしさがある。

暫くの間、金蔵は脚を動かすことが出来なかった。







籠女 籠女

籠の中の鳥は

いついつ出やる

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だぁれ?







澄んだ歌声。乱れて色香を増す髪。項。哀しい詞。

「質問を変えよう」
「何であるか」

言葉だけで応える。振り向きはしない。

「お前は、誰に逢いに行くつもりだ?」
「――――え?」

脚が止まる。
その刹那、ほんの一瞬の隙に、後ろから抱きすくめられる。いつの間にこんなに近くにいたのだろう。
じわり、と染み込む彼の温もりが、ベアトの体温を取り戻す。自分が冷え切っていることに初めて気付いた。

「金蔵、暑い。離せ」
「諦めろ。もう夏だということだ」
「それは関係ないであろう」

律儀に疱く振りをして。逃がさぬよう腕を強められると、静かに躯を預ける。
脇目に―――金蔵の肩越しに広がる浅葱色の空。太陽はもう沈みきっている。

悔しいほど綺麗だった。残り香でしかないからこそ。

「逃げられるなどと、本気で思ってはいないわ」

無意識だった。
ただ、吸い寄せられるかのように。逃げられると追いたくなるのは、どうやら男だけではないようだ。

「――――死ぬ気だったのか?」
「わからぬ」

男の表情が険しくなったのがわかる。一度目はそうやって逃げられたからだろうか。

「魔女にとって、肉体の死は大したことはない。そうであろう?」

自嘲気味に言ったのは、人間はたった一度で死ぬから。愛する男――――否、少年は、紛れも無くニンゲンだから。
生き永らえることを望まずとも、肉の檻から逃れ得ぬ我が身を蔑む。

「行くな、行かないでくれ、何処にも、誰の元にも」

老獪な男のしわがれた声が、耳元で囁かれる。
ベアトは唇を噛む。

(やめてくれ。悪いのはそなたではないか。何故、妾に罪悪感を持たせる)

「わかった、だから離せ。暑いと言っておろう」
「私ではなく夏に言え! 私は離さぬ!」
「……もう、夏は終わると言ってくれ」

真摯な眼で射抜いた。金蔵は瞠目し、眉をひそめる。
ベアトは、『ああ、わからないのだ』と悟る。

「まだ、始まったばかりだぞ? お前は夏が嫌いなのか。意外だな。喜んでいるとばかり思っていたが」
「――――うむ。嫌いだな」



今宵はまだ月も見えぬけれど、そろそろロノウェ達が待っているだろう。
この姿で帰ったら大目玉を喰らいそうだ。主にも容赦のない家具共が。
魔法で乾かす気分ではない。責任持って気合いで乾かしてもらおうか。

これから夏だと言い張る男に。







――――永遠に魔法の使えぬ男に憐れみを。
――――慰めも得ぬ魔女に嘲笑を。



10月は、まだ来ない。
(取り残された者達の楽園)
PR

Copyright c ベアト総受け文企画。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By Mako's / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]