ここは魔女の館。
広いリビング。あるのは一脚の豪奢でふかふかのソファーと、それに向き合うように置かれた大きなテレビ。
そして、ソファーに並んで座るのは、黄金の魔女ベアトリーチェと右代宮戦人。
「いいのか、ベアト? こんなの観ちまって、夜中にトイレに行けなくなってもしらねぇぞ? いっひっひ」
「子ども扱いするでない! 妾を誰だと思っている。妾は黄金の魔女、ベアトリーチェ。こんな作り物に怖がるわけがなかろう」
そう、二人がテレビで観賞しているのは、ホラー番組。祟り、怨み、呪い、この世ならざるものの恐怖をおどろおどろしく描いたフィクションだ。
『わたし、リカちゃん。いま……あなたの……後ろにいるの!』
「ひぃっ!」
悲鳴があがった。
思わず、傍にいたものにしがみつきながらも、視線はテレビから離せない。
しかし、次の怪談が始まる前に、テレビの電源は切られていた。
「む? どうして、止めたのだ?」
しがみついたままのベアトリーチェが尋ねる。
「ん、いや……それどころじゃなくなっちまってな」
答える戦人はどこか照れ臭そうにしていた。
しがみつかれた戦人の腕には、ベアトリーチェのふくよかな胸が密着していた。それが戦人のカラダの一部を穏やかざるものにしていた。
「ほほぅ。妾の魅力に気づいたか」
戦人の変化に気づいたベアトは意地悪く笑いながら、さらに胸をおしつける。
「ほらほら、どうだぁ? 戦人ァ? 紛れもない魔女の感触だぜぇ? 魔女を認めたくなったか? きひゃひゃひゃひゃ」
「おいおい。恥じらいは大事にしろよ。恥じらいこそ萌えのもとなんだぜ」
戦人は苦笑いしながら答えた。
「魔女は恥じらいなど感じぬわ」
「へぇ……いっひっひ……」
きっぱりと宣言するベアトに対して、今度は戦人が含みのある笑みを浮かべていた。
「む、何を企んでおる?」
「さぁてなぁ……」
戦人の笑みに、さすがのベアトも警戒する。
「まさかそなた、妾を裸に剥いたりするつもりか?」
「いや、そんなことはしねぇさ」
「では、なにを……」
訝るベアトだが、戦人は余裕の笑みを浮かべるばかり。
ベアトは距離を取ろうと腕を伸ばし、戦人から離れようとした。
だがその時、戦人が素早くベアトの肩を抱き、強引にベアトを引き寄せた。
「なっ!?」
「ベアトは良い匂いがするな」
戦人は抱き寄せたベアトの頭頂部に鼻を近づけ、ベアトの髪を撫で、そして、ベアトのおでこに口づけをした。
「~~~~~~~~~!!?」
「どうした? 顔が赤いぜ?」
「し、知らぬっ」
「いっひっひ。魔女に恥じらいなんて無いんじゃなかったのか?」
ベアトの頬は朱に染まり、瞳は潤んでいた。
「……ばからっ」
顔を隠すようにベアトは、戦人の胸に顔を埋めるのだった。
(おっとと、こんなベアトも可愛いが、ちょっとやりすぎちまったかな?)
「……くっくっく」
「ベアト?」
「……良いことを思いついたぞ」
「へぇ? なんだ? 言ってみろよ」
ベアトは顔を上げると、戦人のほっぺたに、ちゅっとキスをした。
「どうだ! 恥らうがよいっ!」
「ベアト……お前の方が顔真っ赤になってるじゃねぇか」
「う、うるさい! うるさいっ!」
反論するベアトだったが、さらに頬が赤くなるばかりだった。
「じゃあ、お返しだ」
そう言って、顔を近づける戦人に、ベアトは思わずたじろいだ。
「なにをするっ!?」
「ん……俺にキスされるのは嫌か?」
「あ……い、いや……その……」
急に真顔になった戦人に、ベアトは返答に困った。
「そうか。ベアトはそんなに俺からキスされるのが嫌なのか」
「い、嫌だとは言っておらぬ! ほ、ほらっ、するなら、さっさとするがよいっ!」
そう言うと、ベアトは顔を上げ、目を閉じ、戦人からのキスを待った。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そして、今日一番に真っ赤になったベアトの出来上がり。
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