「おーい、ベアトー?」
おかしい。
右代宮戦人は用事があり少しの間出掛けていたため、今帰ってきたところである。
だがこの静かさは何なのだろう。
先ほどからベアトリーチェの姿が見当たらないのだ。
いつもあんなにうるさいほど引っ付いてくるくせに、今日は違った。
「どうしたんだ?あいつ…」
もしかして森の狼にでも食われちまったか?などと馬鹿なことを考えながら辺りを探した。
だが、魔女の姿はどこにも見当たらない。
屋敷も薔薇庭園も九羽鳥庵も見て回った。
しかし結局どの場所にもベアトリーチェはいなかった。
「参ったな……」
がしがしと頭を掻きながらため息を付く。
気まぐれで突拍子もない彼女はいつも戦人を困らせては心配をかけていた。
それもこれも、彼が彼女を大切に思っているからで。
愛しいから心配もすれば不安にもなる。
戦人は少しネクタイを緩めると、再びベアトリーチェを探し始めた。
***
「どうしたのですか?戦人くん。」
「あぁ、ワルギリアか。」
もう一度探しに来た薔薇庭園でベアトリーチェの師匠であるワルギリアに会った。
「ベアトを見なかったか?」
「あぁ…あの子ならずっと戦人くんを探していましたよ?先ほどこの辺りで逢いましたから。」
「すれ違ったか………ありがとな、ワルギリア。」
「いえ。ほっほっほ、あの子、とても淋しそうにしていましたから早く見つけてあげてくださいね。ロノウェと紅茶や茶菓子を用意して待っていますからね。」
「あ、あぁ」
少し前まで此処にいたのだと聞き、自然と足早になる。
まだこの辺りにいるかもしれないと見当をつけ、屋敷の方へ向かった。
しかし、やはり屋敷の方にはいなかった。
残るは森のほうか………。
かなりの時間探し回っていて、疲れが出始めたが探さずにはいれなかった。
***
九羽鳥庵の姿が遠目に見えてきた。
急いで向かおうとしたが、ふと足を止めた。
森の少し入った所の大きな木の下にふわりと赤い花が咲いているのを見つけた。
いや、それは花ではなく、赤いドレスを広げて芝生に座り込んでいるベアトリーチェだった。
「ベアト………?」
声をかけるが反応がない。
戦人はベアトリーチェに近付き、隣にしゃがみ込む。
すると、小さな規則正しい寝息が聞こえてきた。
どうやら歩き疲れて休んでいるうちに寝入ってしまったらしい。
なんだか可愛らしく思えて、知らず知らずのうちに口元が緩んでしまう。
もう暫く寝かせておこうか。
戦人はスーツの上着を脱ぎ、ベアトリーチェに掛けてやった。
「ん………」
眠るベアトリーチェの顔を近くでまじまじと見つめる。
普段の強気な蒼い瞳は閉じられ、長い睫毛が綺麗なカーブを描いていた。
憎まれ口ばかり叩く口も閉じられていて、桃色に輝いていた。
ベアトリーチェの頬にかかった耳元の後れ毛を手で払ってやる。
「………んん」
するとベアトリーチェは薄く目を開いた。
目覚めた途端、戦人の顔が間近にあり、思わず狼狽えながら目をぱちくりとさせた。
「ばッ!ば、ば、ば、ば、ば、」
「うぉッ!?いや、その」
一方、戦人もベアトリーチェが目を覚ますとは思わず、しどろもどろになる。
こういう時、どうすればいいのだろう。
ずっと間近であなたの顔を眺めていました、なんて恥ずかしすぎる。
あぁもうッ!落ち着け、クールになれ、右代宮 戦人ッッ!!
「ば、ば、ば、んッーーー!?」
気付けば戦人は思わず、ベアトリーチェの唇に自分のそれを重ねていた。
心臓の音がいつもより倍くらい速くなっている。
ベアトリーチェは固まったまま動かなかった。
暫く重ねていた唇をゆっくりと離した。
ベアトリーチェの顔を見ると、耳まで真っ赤に染まっていた。
そして何か言おうと口を金魚のようにパクパクとさせている。
「………お前が悪い。」
「はァ!?なぜだッ!意味が分からぬ!大体そなたの姿が見えなかったから…」
「こんなとこで無防備に寝てる奴があるか!それと………探させた罰だ。」
ベアトリーチェは腑に落ちないと言った顔で上目遣いに睨みつけてくるが、真っ赤な顔でされても可愛いだけだった。
「そなただって顔が真っ赤ではないかァ?」
「な、うるせぇッ!お前に言われたかねぇよ!」
「罰だなんていってェ、本当は恥ずかしかったのだろォ?」
「くッ…」
ちょっと弱みを握られたらこれだ。
全く……
「………もう勝手にどっか行くんじゃねぇぞ?」
「ふぇ?」
くしゃくしゃとベアトリーチェの頭を撫でてやった。
すると彼女は少しむっとしてから、くすぐったそうに目を細めた。
「そなただって…もう勝手に妾の前から居なくなるでないぞ。」
「え?」
小さい声でうまく聞き取れずもう一度聞いた。
「いや…なんでもない。」
ふわりと笑うと戦人に手を伸ばした。
戦人はその手をぎゅっと掴むと、ベアトリーチェを立たせた。
「行くか。ワルギリアがロノウェと一緒に美味い紅茶と茶菓子を用意してくれてるってよ。」
「うむ!」
二人はもう二度と離れないよう互いの手を強く握り、ワルギリアとロノウェの待つ茶室へ向かって歩き出した。
Buongiorno.(目覚めは甘い口付けで。)end
*あとがき
でした
私が初めて書いたバトベアssでは重ねる程度しか手をつないでくれなかったので、今回はしっかり握りしめて貰いましたwww
若干戦人にK1が混じっちゃったのは気のせいです←
ちなみにこれの後に書いた「Buonanotte.」という続編短編をサイトにうpしてあるので、暇が有れば読んでやってくださいwww
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